My Life Style
Sumikaの巻頭特集
陶芸家と画家の棲み家

宮崎市鏡洲。 幾重にも連なる照葉樹の森と、 淀みなく流れる川に抱かれた加江田渓谷のほとり。 陶芸家・山本勘弥と画家・山本かなこ夫妻が暮らす地を訪ね、日々のそこかしこに宿る “美” の存在について話を聞いた。(写真と文・高比良有城)

暮らしの道具根々
山本勘弥 陶芸家
1972年 東京都出身
栃木県益子町で陶芸の修行を積む
1997年 宮崎県で勘窯を開く
2006年 栃木県茂木町に移り登り窯を築く
2011年 東日本大震災により登り窯が倒壊
2013年 宮崎に戻り勘窯を再始動
2017年 登り窯を再建
2018年 初窯を焼成
陶芸家・山本勘弥さんは東京都の出身。ご両親(美術教師の父と、人形作家の母)の影響もあり、幼い頃から絵画や芸術を身近に感じながら暮らしてきた。高校卒業後は絵描きを目指し、ニューヨークのアパートを借りて絵画の修行を積んだ時期もあった。
勘弥さんには、いつも心に留めている言葉がある。幼少時のある時、お父さんが絵画作品を眺めながら口にした「ほんとうの色なんてない」という言葉だ。「白には200通りの白がある」とは近頃よく聞くフレーズだが、そのはるか昔に語られたお父さんの言葉は「色や形の存在そのもの」を疑うさらに難解で不可思議な問いかけだった。勘弥さんはそれ以来、「色とはなにか、形とはなにか、存在とはなにか、美しさとはなにか」を常に自問するようになったという。


陶芸と出会ったのは23歳の頃。美術教師を退職したお父さんが開いた窯で、湯飲み茶碗を作ったことが始まりだった。絵画から陶芸の世界へ。キャンバス上での表現に窮屈さを感じ始めていた勘弥さんにとって、陶芸は確かな存在としての「美しさ」をありありと実感できる表現方法だった(初めて作った湯飲みは、あれから30年経った今も大切に使っている)。
その後、栃木県の益子町や茂木町で陶芸の修行と創作に励んだ勘弥さん。古来より、陶芸の本質は「一焼き、二土、三細工」と言われてきた。その神髄に迫るべく、勘弥さんは「登り窯」での作陶にたどり着く。30歳前後の頃のことだ。
登り窯による焼成は、五日間以上をかけてじっくりと火を通し、仕上げには1300度以上の高温で素早く攻め焚く。燃料となる薪も自ら調達し、費やす薪の総凪は5000キロにもなるという。


長時間の焼成によって陶土はしっかりと焼き締まり、ゆっくりと冷ますことで貫入(表面に生じるヒビのような模様)が細かくなる。
「すべては窯まかせ。登り窯におんぶに抱っこです」と笑う勘弥さんだが、その準備から仕上げまでの工程に少しの余念も妥協もなく、自然に寄り添い、語り合い、ときに命がけであらがいながら作為と無作為の狭間にある「自然と人の美しき調和」を目指して窯と向き合っている。
加江田渓谷のほとりに工房と登り窯を構える、勘弥さんの表現の場である。轆轤(ろくろ)は、心と体のリズムに調子を合わせて足で蹴って回す。
土や火、温度、湿度、不純物、ムラなど、コントロールできない不確かな自然のゆらぎとゆがみの過程を経て、確かな存在として形作られる勘弥さんの器。
手に取ってみれば、いつまでも焔を纏っているかのような力強い存在感と、自然が生み出す深い色合いと風合いが魅力。なにより暮らしに馴染み、人に寄り添う”たたずまい”がことさら美しい。

山本かなこ 画家
1972年 埼玉県出身。東京造形大学卒
デザインの仕事を経て、陶器の絵付けに従事
2007年 栃木県茂木町にて油絵教室を主宰
2014年 宮崎市楠笠木通りに、
暮らしの道具「根々」オープン
2018年 加江田渓谷のほとりへ移転
山本かなこさんは埼玉県の出身。学生時代から画家を志し、東京造形大学美術科を卒業。同い年の勘弥さんとは、美大受験に向けて通っていた予備校生時代に知り合った。美大卒業後、一時は筆をマウスに持ち替えてデザインの仕事に就いたが、ふたたびアナログの世界に戻りキャンバスと向き合うことに。26歳で勘弥さんと結婚。当時は栃木県茂木町で暮らしていたお二人。勘弥さんが作り上げた作品にかなこさんが絵付けを施していた時期もあった。
心の内を自由かつ自在に表現する作品制作とともに、かなこさんがライフワークとしているのが絵画教室。川のほとりのアトリエで子どもや大人を対象にした絵画教室を開き、生徒さんそれぞれが描き出す色とりどりの世界観を、より繊細(あるいは大胆、もしくは深遠)な方へと導いている。


時間をかけて少しずつ色を足し、削ぎ、重ねていくかなこさんの作品は、夢とうつつの狭間を行ったり来たりするような空気感と浮遊感をまとっている。心の動き、自然の移ろい、時間の経過を幾重にも塗り重ねていくことで、表面の線や色のさらに奥深くにある世界へと見るものを誘う。そこにもまた不確かで奥ゆかしい”無垢の美”が存在する。
陶芸家・山本勘弥と、画家・山本かなこ。ふたりは自然豊かな土地に棲み、人と触れ合い、自分と向き合いながら、何気ない毎日のそこかしこに在る”美しき日々”のほとりで暮らしている。
※こちらの記事は2025年に発行された「住まいの雑誌Sumika 18号」に掲載された特集を再編集したものです。内容は取材当時のものとなります